星新一さん (1926~1997)
ご存じでしょうか?ショートショートで有名な作家の星新一さんは、当店も熊笹製品やコラーゲンでお世話になっている「星製薬」創設者のご子息です。ちなみに薬科大学で有名な「星薬科大学」はこの星製薬の教育部門(明治42年)が前身になり設立された薬科大です。
星さん自身は東大農学部出身ですが、卒論がペニシリン関係とのことで、やはり薬に縁が深いようです。(ペニシリンは微生物が作る医薬品なので発酵などがからむ農学部とも関係します)
ところが大学院在学中にお父様が急逝され、学校を辞めて突然会社経営をやることになりとても苦労されたようです。経験無しでいきなり大企業の舵取りはさすがに無理ですよね。結局会社経営は続けず、大学院時代の研究とも違う、作家になったわけです。星製薬さんにとっては微妙かもしれませんが、おかげでショートショートというジャンルが日本に広まったのではないでしょうか。
私も中学生くらいの時、星さんの本を何冊か読みました。あまり本を読むのが好きでなかった私でも、星さんのショートショートは読みやすく、しかも結構奥が深くて色々考えさせられました。
ちなみに昔読んだ星さんの短編小説の中で「午後の恐竜」という話がとても印象に残っています。 この話のラストはとても衝撃的で、40年以上も経っているのに今でも覚えています。
フランシス プーランクさん (1899~1963)
モーツァルトのような超知名度はありませんが、フランス6人組と言われた音楽家のひとりフランシス・プーランク(敬称略)は、私の大好きなクラッシック作曲家の一人です。 プーランクは、星新一同様 「ローヌ・プーラン・ローラ(RPR)」というフランスの大きな製薬会社の3代目にあたるご子息でした。RPRは2024年現在、世界第6位の「サノフィ」という巨大製薬会社の傘下にいます。サノフィは私が薬剤師を始めた頃はまだ「ヘキスト」「マリオン・メレルダウ」「森下ルセル」そして「ローヌ・プーラン・ローラ」というそれぞれ別々の会社でした。
RPRはクロルプロマジンという非常に重要な統合失調症の薬を開発した会社です。 ローヌプーランの歴史は、プーランクの祖父が薬剤師でパリで薬局をやっていたことに遡ります。写真の現像に必要な薬品の製造に関わるようになり、経営はその息子達に、すなわちプーランクの父と叔父に引き継がれました。ところがいよいよ巨大な企業になった会社を、三代目のプーランクは引き継がず、音楽の道へと進んだ訳です。 そのせいかどうか、プーランクの音楽は独特の雰囲気を持っています。正直、聴いたことがない人の方が多いと思いますが、とても素敵な作曲家なので、1回でもいいからぜひ聴いてみて頂けるといいなと思います。 プーランクが大企業社長にならずに、音楽家になってくれたおかげでこんないい曲が残っているのですから。
プーランク 2台のピアノのための協奏曲 第2楽章(プーランクの中で 自分が一番好きな曲) https://www.youtube.com/watch?v=vLDxf4LzF6c
薬の名前に興味を持たれたことはありますか?
「薬の名前は聞きなれない響きが多く、覚えづらい」とよく耳にします。
割と馴染みやすいものとしては、ダジャレ系があります。これは市販薬の独断場。
スーッと治るから「ストナ」とか、脳がシーンっとなるから「ノーシン」とか、市販薬はこの手のネーミングはいっぱいあります。
調剤薬でも解熱鎮痛剤で有名な「カロナール」なんて、熱や痛みが軽くなるから「カロナール」なんですね。
調剤薬では、ぱっと見ではピンと来ないですが、結構凝ったものがあります。
「ザイザル」という割と有名な抗アレルギーの薬がありますが、これは英語名で「Xyzal」と書きます。…xyz。「これが最後のアレルギー(al)剤だ!」というわけです。
無茶苦茶かっこいいですね!(しかし今後新しく抗アレルギー剤出すことになったら、どうするつもりなんでしょうか)
似たような気宇壮大なものに、胃薬の「ネキシウム」が 「ネクストミレニアム(来るべき千年紀)」の略とか、「モーラス」は「日本を網羅する」など。市販薬でも「ムヒ」の「天下無比」などが代表格です。(モーラスなんて変な名前だなぁと発売時には思っていましたが、確かにトップブランドですね。)
理屈抜きに 響きのかっこいい薬 というのはどうでしょうか。
「ビレーズトリエアロスフィア」とか「リマプロストアルファデクス」なんてどうでしょう。
「エックスフォージ」とか「ジプレキサザイディス」などはアメコミ的でちょっとシビレませんか?(笑)
「フェロ・グラデュメット」とか「ビ・シフロール」など、洒落ているけど「名前の切れ目の点(・)は何?」みたいな謎の名称群もあります。(昔ダン・リッチなんていう鼻炎薬もありました)
この洒落た外国語みたいな「ビ・シフロール」は、独ベーリンガーインゲルハイム社の薬で実際の海外では なんと、ただの「シフロール」の名称で販売されております。
日本国内で発売する際、日本では他の間違えやすい類似した名称の薬が別に存在した為、区別のために 製造メーカーの「ベーリンガーインゲルハイム」の頭文字を取って頭に「BI」と付けることになってしまったそうです。予想外に事務的でローカルな事情です。この経緯は業界の方でもあまり知らないのではないでしょうか。因みに、いつも私は「ビ・シフロール」を見ると 昔、 山口百恵が歌った問題作!「美・サイレント」を思い出してしまいます…。(私はバリバリの昭和世代です 笑)
最後に癒し系。
「リリカ」、「セララ」、「スイニー」は医療用かわいい系3姉妹。
「グーフィス」は魔法の国っぽい響きです。ちなみにグーフィスの成分名は「エロビキシバット」なので 意外にワイルドです。
以上、だからどうだって話ですが、どれも手前どもで取り扱っている薬です。
ちょっと知っていると親近感も沸くのではないかと、勝手に思いました。
参考
市販薬
医療用
私が子供の時、巣鴨の縁日の屋台に「しょうのう舟」というおもちゃがよく売られていました。
しょうのうをセルロイドの舟に付けると表面張力の差で舟がすーっと走りだすおもちゃです。
樟脳は私にとって、昔の懐かしい子供の頃を思い出させる香りです。
六地蔵店で「天然の樟脳」を扱っています。
天然の樟脳はクスノキを大きな釜で水蒸気により抽出し、手間をかけて精製して作られます。
樟脳は化学的に合成することもできるので、コストのかかる天然ものは ただのイメージ品かというと、必ずしもそうともいえないところがあります。自然だから良いではなくて、化学的にもある意味別物ともいえるのです。
ところで物を鏡に映した時に、鏡に映った像は反転します。これを立体として比較した場合、条件によってはこの鏡の左右の違いは「似て異なるモノ」となる場合があります。
例えば右手と左手。右手どうしの握手は出来ますが、右手と左手では握手はできません。鏡像の関係にある右手と左手は、そっくり同じですが別物なのです。
あるいは鍵の場合、鏡に映した形を仮に作ったら、通常元の鍵穴には差せません。
つまりこれら鏡に映った形は、厳密に言うと違う形ということになるのです。
このような鏡に映ったある種の関係のことを化学の言葉で、鏡像異性体といい、片方をD体、もう一方をL体といって区別します。
実は樟脳を化学合成で作った場合には、最終的にちょうど鏡に映した左右の関係(D体とL体)の2種類の形の樟脳ができます。
化学反応では原子や分子がくっ付く時、右からくっ付くか、左からくっ付くかで、両方の形ができてしまうのです。
これらは解ける温度(融点)や密度などの物質としての性質は、まったく同じなので、混ざっているものを後から分離することは困難です。
ところが、クスノキによって自然に作られた樟脳はなんとD体のみなんです!
そして人間の感じ方も鏡像異性体の違いを区別するケースが多々あります。
例えば甘味料で有名なアスパルテーム(パルスイート)は砂糖の200倍の甘さを感じますが、もう一方の鏡像異性体は苦味として感じます。
調剤で使用する医薬品も作用の違いから鏡像異性体の片方だけの製品は結構あります。(クラビット、ルネスタ、ネキシウムなど)
痛ましい薬害であるサリドマイド事件も、後になって分ったことですが片方の鏡像異性体の仕業でした。
穏やかな木の香りのする「天然の樟脳」を作ることは、大変手間のかかる作業ですが、生活に上手に取り入れて利用することは、化学的にみても有用と言えるのではないでしょうか。
一大ブームを巻き起こした「鬼滅の刃」。
自分も読みましたが、面白い漫画でした。ブームになったのも納得です。
ところで、この物語の中で唯一、敵である鬼を成敗するのに刀で切らず
「毒」によって相手を倒す剣士(女性)が登場します。
なんと鬼を倒すための毒を、1年間自らが食べ続けて自分の身体に溜め込む準備をし、
強敵に対して自分を食わせることで、最後に相打ちを狙うという凄まじい話…。
ちょっと悲しい話です。
人間にとっても猛毒なら、身体に溜め込むことなど不可能ですが、
鬼に対しては毒で、人間側は作用しないとなれば、毒というよりまさに薬。
薬学の言葉で「選択毒性」と言います。
例えば抗生物質は人間の細胞にはほとんど作用せずに、細菌は殺します。
分子標的薬はがん細胞の作る物質のみ、まるで誘導ミサイルのようにピンポイントで攻撃し、
近年癌は不治の病ではなくなりました。
余談ですが、犬に玉ねぎを与えると、中に含まれる成分の解毒が出来ないので危険です。
薬ではないですが、これもある種の選択毒性と言えるでしょう。
新型コロナは私たちの生活を無茶苦茶にしました。
極めて困難なことなのですが、
なんとか新型コロナウイルスにだけ選択的に攻撃する魔弾が出来れば…。
世界の製薬メーカーが必死に探しています。
※現在既に4種類の抗コロナウイルス薬が開発され、使用されています。凄いですね。。
ゾコーバ(塩野義製薬)
ラゲブリオ(メルク)
パキロビッドパック(ファイザー)
ベクルリー点滴静注用(ギリアド)
江戸の時代から、富山売薬は有名だったわけですが、現在でもその伝統は続いています。
突然ですが問題です
「ダルマ」入りの薬があります。 いったい どういう訳でしょう???
答えはこちら。コロコロと赤い玉と黄色い玉が、粉末の中に混ざっています。
この玉を縁起の良いダルマさんに見立てている富山の配置薬でした。
ユニークですよね。
成分は無論、一般的な感冒薬と同じです。
昔からの薬ですが、こういう伝統薬がどんどん無くなっています。
なんとも不思議な剤形のお薬です。
新規での許可(厚労省)はたぶん通らないでしょう。
つまりこれらが無くなったら終わりです。
富山のメーカーさんに直接電話して、
どうしてこういう形になったんでしょうか? と聞いてみたのですが、
電話対応してくれた方いわく
「う~ん、かなり昔からずーっとやっていて…、 事情を知っている者がいないのでよく分からないです…。」
と、大らかな お返事。 すごい…。 歴史あり過ぎです。(笑)
なんというか、こういうモノ 無くならないで欲しいです…。
選択肢の中に、ダルマ入りの風邪薬くらいあったって いいですよね?
六地蔵店に在庫しています。
( 現在「ネオ真治」な残念ながら製造中止となってしまいましたが、「かぜピラ」は健在です! )
缶入りの浅田飴を買ったことがありますか?
浅田飴の名前の横に「固形」の文字があります。
飴は固形に決まっているのに
何故わざわざ「固形」なのでしょうか?
ピンときた方は、流石です。
浅田飴の最初は水飴なんですね。
携帯に不便とのことで、碁石形の飴が追加発売されたのは、大正15年だそうです。100年近く前ですから、凄い歴史です。
浅田飴のレシピは江戸末期、将軍家に仕え、維新後宮内庁侍医となる漢方医 浅田宗伯先生の考案です。 浅田飴を創業する堀内伊太郎氏のお父様が、宗伯先生の書生をしていた縁で、処方を譲り受けたとのことです。
私も子供の頃数回口にした浅田飴水飴ですが、美味しくてとにかく食べたくてしょうがなっかった印象が残っていています。(普段は ねだっても、親にこれは菓子ではないと適当に却下されてしまうので、増々欲しくなりますよね?)
残念ながら、元祖である水飴は数年前に製造中止となりました。
私も最終ロットを1個購入し、子供の頃の鬱憤を晴らしました。(笑)
「固形」は相変わらず店頭にずらりと並んでいます。
碁石形でツヤツヤ翡翠色(クール味)をした、丁寧に造られた飴です。(といってもシッカリ医薬品ですが)
昔と違い、のど飴の類はいろいろな製品があるので、迷ってしまいますが、
一度、130年の時を超えた本格的「のど飴」を口にしてみるのも、良いのではないでしょうか。